Ⅱ.少し食べられるようになってきたら…
よく噛むことはおいしく食事をするための第一歩です。よく噛んで唾液の分泌を促すことは、栄養素をとり込むための準備でもあります。また、手術した胃の負担を軽くして腸でスムーズに栄養素が吸収されるためにも、食べ物をよく噛むことがとても重要になります。
噛むことでほどよい満腹感が得られて食事量が適量にもなります。健康であってもあわてて食事をすると膨満感やつかえ感、むせなど、食後の不快感につながります。「よく噛んでゆっくり食べる」ことを意識して、自分の食べるペースを守りましょう。
手術したことで胃の容量が減り、一度に食べられる量は少なくなります。そのため、必要なエネルギーや栄養素は何回かに分けてとります。一日3食のほかに、間食を2回組み合わせるといいでしょう。これは、一度にたくさんは食べられない小さな子どもが、おやつを食べてエネルギーや栄養素を補うことに似ています。
分けて食べることは、ダンピング症候群の予防にもつながります。
おいしく楽しく食べることがいちばんです。
胃手術後の人だけ特別な食事を用意する必要もありません。家族や同僚と同じ食事の中から、自分の体調や食欲に合ったものをとり分けて食べてもいいのです。
和洋中をとり合わせ、ときには少量の香辛料、風味づけの酒類やバターやごま油などを効果的に使い、おいしく調理しましょう。
食べ物を胃から腸へスムーズに送るためには、 やわらかく調理した食事をよく噛んで食べるようにします。何回噛めばよい、ということは一概に決められませんが、おいしく満腹感を味わうには「30回噛む」といった程度が目安でしょう。
たくさんは食べられない時期なので、脂質が多い食品を使ってエネルギーを補いましょう。薄切りのロース肉やひき肉、イワシ、ギンザケ、ブリ、サンマなどがおすすめ。油脂が多い肉や魚はしっとりとしていて食べやすい利点もあります。ロースは冷しゃぶ風に、ひき肉はハンバーグにしておろし大根を添える、魚は塩焼きにしてレモンを搾ったり梅干しや酢を加えた煮汁で煮る、などすれば、もたれずにおいしく食べられます。
乳製品ではクリームチーズや生クリーム、練乳などを使うといいでしょう。調理にごまやピーナッツバター、マヨネーズなどを使うとエネルギーがアップします。
ダンピング症候群とは、食べ物が腸に急に落下(ダンピング)することで起こる症状(冷や汗、動悸(どうき) 、めまい、脱力感、低血糖状態など)です。炭水化物が腸で急激に吸収されることが原因の一つです。また、炭水化物に偏った食事は倦怠感の一因になります。
その予防には、ゆっくりよく噛んで食べる、一日5、6回の分食にして少量ずつ食べる、主食・主菜・副菜がそろった栄養バランスのよい食事をとることなどがたいせつとされます。また、甘いもののとりすぎも原因になるので、注意が必要です。
旬の食材や行事食など、「食べたい気分」に気づきましょう。春は菜の花やせり、夏はアユやウナギ、秋は松たけや栗、冬は煮込み料理や甘酒などが食べたくなります。
一年じゅう、いつも同じような料理ではなく、季節を感じて料理を用意し、気分を変えることもよいでしょう。