後遺症に対する関心を

1982年、本会創設の発端となった、1,000人アンケート(『胃を切った人の後遺症』)の結果は、胃切除術にかかわる当時の外科医に驚きをもって受け止められ、後遺症に対する関心も高まりました。その当時の後遺症の状況と今回のアンケート結果を、単純に、後遺症の有無と重症度で比較したのが、図1です。

図1

22年がたち、手術技術も進歩し、後遺症対策も進歩しているはずですが、重症な後遺症のある方が2倍近く増え、後遺症がない方は1.5%に減っています。この理由に、まず、22年前は告知の問題があったにせよ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの良性疾患が多く、手術の術式は胃部分切除(幽門側胃切除術)が多数を占めていたのに対し、今回の対象者は胃癌が大多数で、しかも全体の約半数(49.5%)は、胃全摘術を受けていることがあげられます。22年前も、全摘術後に重症な後遺症が多いという結果が出ていますので、今回の重症者の多さは、癌の根治性向上のために行われている拡大手術である全摘術増加の影響と考えられます。

しかし、今回の結果を部分切除(幽門側・噴門側・胃体分節)の方だけでみても、重症者が30%を超え、22年前の24%を大きく上回っています(図2)。まだまだ、医療者側が原病に対する根治性に満足し、その後に新しく発生する「後遺症」に対する関心の低いことを物語るもので、手術前の説明と理解に対する努力が、医療者側・患者側双方に不足しているという結果(前号に解説)とも相関しているものと考えられます。

図2

結論的には、胃切除後の後遺症に対する認識は、残念ながら22年前から、あまり進歩していないのではないかといわざるを得ないようです。

胃切除後の再入院

本来、術後短期に再入院する器質的障害は、胃手術に限らず、開腹術、あるいは原病に起因する後遺症と考えるべきなのでしょうが、ここでは、胃癌・胃手術に直接関係する特徴的「再入院」として調べてみますと、17.9%(57人)、約5人に1人の割合で再入院していました(図3)。その原因のトップは腸閉塞であり、再入院した全体の50.9%を占めています。術後の食事に対する正しい理解と知識の重要性が改めて指摘されます。

図3

第2位の転移・再発は、原病の大多数が胃癌で占められている以上、やむを得ないともいえますが、第3位・第4位の栄養障害・体重減少・後遺症状での再入院は、手術後のリハビリテーション不足が原因とも解釈されるもので、全体的に胃切除後後遺症に対する認識不足が根底に根強く残っていると懸念されます。

胃切除後後遺症と経年変化

一般には、胃切除後の後遺症状は、少なくとも自覚的には、術後年数を経るに従い、自己コントロールと慣れにより軽減されると考えられています。しかし、22年前も同様でしたが、1年未満から2年目には若干重症な悩みは減少するものの、3年目に入ると横ばいか少し増加しています(図4)。これは、「胃切除後」である「自覚」が時として薄れるために症状が出現したり、逆に3年たっても改善されない焦りが、症状を悪化させる場合があることを示唆するデータと理解できます。

図4

22年前、「一説によりますと、手術後3年以上経過しても治らない後遺症を根治することは難しいと言われています。しかし、それを解決してゆくのが私たち自身の絶えまない闘いでもあると思います」(『胃を切った人の後遺症』より)と発行人の梅田幸雄氏は述べています。いまだにその闘いは続いているようです。

しかし、その内容・種類には、かなりの変化がみられます(図5)。]

図5

悩みのトップは変わらず「おなら」で55.5%ですが、重症者は約半数に減っています。胃全摘者が増えているせいでしょうが、「やせ」が増え49.8%と半数に達し、重症者も増えています。しかし、「疲れ」は7%増加しているものの、重症者は著明に減り、20%だった「動悸」は、今回は0.3%しか訴えられていません。疲れも動悸もダンピング症状の一つとして捉えると、重症のダンピング症状が著明に減少していることを反映していると思われます。

22年前との比較で、まだまだ、医療者側・患者側双方の胃切除後後遺症に対する認識を、手術前から深める必要性がありそうです。

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