告知の変化とあり方
情報の保護と患者の気持ち
前号で報告の通り、本人への癌の告知の割合は、13年前に本会で調査した60%に比べ、現在(この3年間余)は、「家族と一緒に」も含めると、93%を超えております(前号表22参照)。その中には根治不可能のケースも含まれるようになり、医療者側と患者側が情報を共有していこうという姿勢は、明らかに前進しているように見受けられます。
しかし、告知は、現在でも数%(男性5.8%、女性7.1%)は、「家族のみ」に行われています。これは、患者さん自身には理解できない、あるいは、ショックが大きすぎるのではといった配慮があったものと思われますが、本年4月から全面施行される「個人情報保護法」によれば、家族に告知(情報伝達)する場合でも、原則的には(例外もありますが)、本人の同意なしには行ってはいけないことになります。
日本では、告知はまず家族に話してからといった習慣がみられましたが、今回、「本人のみ」への告知は、男性81.2%、女性82.1%であり、少なくとも医療者側の個人情報保護に対する意識は、すでに高いとも考えられます。ただし、他方では、その情報(告知)を冷静に受け止められず、種々悩み、ショックを受けておられる方たちが40%を超えていることも忘れてはなりません。
告知を受けた方たちが抱えている問題の中で、純粋に個人的な問題(家族・仕事のこと、人生のやり残したことへの悔恨・焦燥など)は28.2%と意外に少なく、どちらかといえば、病気自体から派生する問題(入院・手術、再発・転移・進行度、死への恐怖、術後の生活・後遺症など)に対する悩みが61.1%に達しており(前号表3参照)、告知の際に患者サイドに立って考慮すべき点は明らかでしょう。
また、医療者側は、個人情報の保護への配慮とともに、「家族と一緒に告知されたい」という患者の気持ち(告知に関する「会員200人アンケート」会報235/237号より)にも対応すべきであろうと思われます。
医療者と患者の対応
インフォームド・コンセント
今回のアンケートによると、インフォームド・コンセント(説明と同意)は96.6%の方に行われており(図1)、少なくとも形の上ではそれなりの対応が行われているようです。しかし、インフォームド・コンセントとは、本来、「病状や治療に対する説明を受け、理解し納得する」ことですが、実際に医師からの説明が理解できたと答えた人は、全体で63.3%に過ぎず、3人に1人は説明の半分以下しか理解できなかったようです(図2)。
これをいかに解釈するかですが、これだけ高率に行われている「告知」なるものの内容は、「病名告知」であり、必ずしも「病気の内容・実態」の告知となっていないのではないかと危惧されます。医師の説明不足が巷間でしばしば報道されますが、こうした「病名告知」だけでは十分に理解できない病人本人に対して、病気の内容や実態の説明(情報伝達)が望まれるところでしょう。
セカンドオピニオン
最近、「セカンドオピニオンを求める」という言葉をよく聞きます。告知や説明された内容について、第三者の意見(中立の2番目の医師の意見)を求めることですが、3年前まで遡った今回のアンケートの対象者にとっては、まだなじみの薄い行為だったのかも知れません。図3のごとく、セカンドオピニオンを求めた人たちは、わずかに15.7%に過ぎず、インフォームド・コンセントで、説明を十分に理解できなかった人たちの半分にも達しておりません。入院時の医師の対応に関する質問でも、「不親切であった」と答えた方は、男女合わせてわずかに7人(2.2%)で、医師に遠慮した結果と解釈すべきなのでしょうか。
他方、実数は少なくはなりますが、セカンドオピニオンを求めたときの医師の反応が、「消極的だった」と答えた人は、50人のうち男性の4名(8%)だけで、全体的にはほとんどの医師は肯定的に対応していると考えて良いでしょう。
納得のいく医療を受けるためには、患者サイドも積極的にセカンドオピニオンを求めるような考え方が求められるのではないでしょうか。
「個人情報の保護」が求められる一方、公正かつ透明な「情報開示」も求められる時代になり、医療者側にも、常に客観的に納得のいくような対応が必要とされてきております。しかし、「病気」という本質的に極めて個人的事象として起こる情報を適切に扱える社会となるには、3年前のアンケートのときに申し上げた提言のように、告知の目的は「患者の癒し」にあり、そのためには、患者が医学の進歩を合理的・理性的に解釈できるよう、医療者と患者両サイドの絶えざる努力が必要なのでしょう。