後遺症の悩みとその対応

前号では、本会創設の発端となった、22年前の1,000人アンケートの結果と今回のアンケート結果を比較しました。後遺症の「有無」は22年前とあまり変わらず、むしろ重症な後遺症が増加していることが分かり、その理由に、疾患の変化に伴う手術の術式の変化(全摘術の増加)が考えられると申し上げました。

しかし、後遺症の症状別に分析すると、重症度には若干の変動がみられました(前号図5参照)。手術の術式の変化からみて「やせ」の増加と重症化は当然かも知れませんが、「ダンピング症状」と、その一症状ともいえる「疲れ」「腹鳴」「動悸」などの重症度はかなり減少しており、少なくとも、手術後早期の後遺症に対する患者さんの理解と対応の改善がうかがわれました。

今回の結果で、「一番悩んでいる後遺症」を経年別に整理しますと(図1)、1年目「つかえ」、1年目「やせ」、3年目に再び「つかえ」となり、いみじくも胃全摘術後の後遺症を如実に反映しています(図2)。

図1
図2

22年前、ほとんどの医療者は「病気を治したのだから後遺症はやむを得ない」という姿勢で、特に胃癌の後遺症対策は皆無に等しかったわけです。だからこそ本会創設の意義があったのですが、今回の結果にみる医療者側の対応は図3のごとくで、悩んでいる後遺症について医師から説明や治療を受けている人が60.2%、その説明や治療に納得している人は45.8%で約半数弱に達してきました。しかし、男女別では、納得している女性はわずかに35.7%%しかいないのはどういうことでしょう。医師の説明を受けているのは女性のほうが62.5%と、男性の59.4%を上回っているのですが……。

図3

いずれにせよ、後遺症に対する医療者側の対応は十分とはいえませんが、22年前に比べれば、かなり改善されているといって良いようです。しかし、それを受け止める患者側の十分な理解をうるには至っておらず、もう一歩の努力が必要でしょう。

また、主治医とのコミュニケーションに満足しているかという質問に、「満足している」と答えた方は60%に達しておらず、医療制度そのものにも問題はあるものの、改善すべき点です。日本では、患者の家族構成や生活環境なども把握しているような「家庭医」を持つ人は少数です。しかし、担当医に聞きにくい、聞く時間がない、あるいは聞いても十分に理解できなかった事柄を、気軽に聞くことのできる家庭医を持つことも、後遺症の克服に重要です。

健全な社会復帰を目指して

さて、術後3年以内の時点で、後遺症を克服して健全な社会生活を送る自信はあるかどうかの質問には、3人に2人以上、特に男性では70%近い方が「自信がある」と答えています(図4)。後遺症の病態を理解し、筋肉トレーニングや適度の運動を実行し、さらには栄養サプリメントなどを利用することにより、術後の経過年数とともに、自信を深めていかれる様子がうかがえます。

図4

少なくとも、50%以上の方は何らかのサプリメントを利用しており(図5)、多数の方が「散歩・ウオーキング」をはじめ、「体操・運動」、「気功・ヨガ・太極拳」などの体を動かす健康法を積極的に行っています(図6)。そして、最大の悩みである後遺症(44.2%)や、再発・転移の不安(21%)などと闘っているのです(図7)。

図5
図6

まとめとこれからの課題

術後3年以内(昨年4月現在)の胃切除者319人に「告知されてから今日まで」の医療者側とのコミュニケーション、後遺症や闘病の状況などをお聞きし、22年前と比較できるところは比較してみました。

たしかに医療者側・患者側双方において、いまだに後遺症に対する関心を高めるべき余地があり、告知や説明の仕方の改善、手術技術の進歩に伴う後遺症の種類・重症度の変化への対応の遅れは見られました。しかし、「胃切除後の後遺症」は、1つの病気を治すために新たに生じる病態であり、その対応の方法は存在し改善ができるという「知識」の普及に「22年間のアルファ・クラブの闘い」が役立っているようです。最も典型的な後遺症である「ダンピング症状」の重症度の改善に、その証拠が認められます。しかし、胃全摘術の増加に伴う後遺症=「やせ」の重症化への対策は必ずしも的確ではないようで、「消化され吸収されやすく」してある高カロリー栄養食(まずはカロリー補給)と運動(筋肉量を増やすこと)の大切さを理解していただく必要がありそうです。

近年では、多数のいわゆる「健康食品」が出回っておりますが、胃切除者にとって必要な栄養素と、その上に積み上げることで初めて機能を発揮する「機能性食品」とをしっかり区別して、自身の健康向上に利用していくノウハウを身に付けることが今後の課題でしょう。

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