怖い高齢者の「逆流性症候群」

対策講じて「人生、これからが大舞台」

「逆流現象の恐怖」

1997年6月4日に胃の全摘手術を受けてから今年で満20年。手術当初は2000年まで、せめて生きたい、次は術後5年をクリアしたい等々、目標は次々に更新され、今年75歳の後期高齢者となった。

本当に夢のような話だが、支えてくれた多くの先生方や家族にいくらお礼をいってもいい尽くせない。そこで改めてこの20年の術後の病歴をたどっていくと、新たな課題が見えてきた。それは肺炎対策だ。

胃のない私はどうしても睡眠時に食事の内容物が逆流しやすい。まして、夕食時間が遅く、夜更かし型の読書人間はこの生活習慣をそう簡単に変えられない。今でも内容物が食道を逆流し、喉のど元まで噴き上がってくる焼け付くような感覚に、年何回かは襲われてしまうのだ。

「来たな?」と思ったときにはもう止めようがない。体を起こして深夜しばらく、逆流の悪魔が鎮まるのを待つしかない。口に苦い腸液があふれ、思わず器官に入ってむせるときもある。何という受難のときであろう。

肺炎が起きた数日前を後日振り返り、記憶をさかのぼってみると、必ず夢見心地で逆流現象が起きていたのを思い出す。

「誤嚥(ごえん)性肺炎」。有名人の死因でよく出てくる病名が、実は私のような胃のない老人の本当の敵なのではないか。

2008年1月、手術から11年たったとき、11日間、肺炎で入院。次は2012年8月に低
血糖(ダンピング症候群)で4日間入院。2015年、16年と続けて大腸のがん性ポリープを切除。16年9月、肺炎で通院、17年2月と5月にも肺炎で通院した。

肺炎で死に損なう

このように病歴を見ると、今年は2回肺炎で死に損なっていることになる。過去にも医師から風邪といわれて実は肺炎だったことがあるのかも知れない。私は真面目に肺炎の予防ワクチンの注射を受けているので、初めは肺炎といってもたいしたことはないだろうと高をくくっていたが、私の肺炎の犯人はウイルスではなく、雑菌であるらしいことがわかった。

逆にいえば予防ワクチンは私の誤嚥性肺炎には効かないのである。それに気づかずにワクチンの効果を過信してしまったのだ。雑菌が逆流を引き金に肺に侵入して炎症を起こし、命を奪うのだ。
胃のない老人がん患者のかかりやすい誤嚥性肺炎を、私たちは、「ちょっと体がだるい、軽い風邪だろう」と見過ごしてしまう。街の先生方へも胃のない老人がん患者の逆流の恐ろしさ、肺炎に至るリスクに想いを至らせて心配りをしていただかないと、気が付いたら手遅れになる。その予防のためにも誤嚥性肺炎の誘因となる「逆流」の不具合は「逆流性症候群」(私の新しい造語)として、もっと注目されても良いのではなかろうか。

肺炎で死なないための対策

私の胃がんの戦友の何人かが亡くなった理由も、肺炎の手遅れからだった。そこで、私たちが誤嚥性肺炎で死に至らないための対策が3つ浮かび上がるので提案したい。

①ちょっと体調が不良だと感じたら主治医に早めに診てもらい、必ず胸のレントゲン写真を撮ってもらう。

②逆流が気管入口まで届かないように、上半身を水平より十分引き上げて寝る。枕を高くしても睡眠中に無意識で枕を外していることがあるので、上半身が自動で起こせる電動ベッドで寝るのが好ましい。

③就寝前は必ず歯ブラシで口の中を清掃し、除菌液でうがいをする。こうした対策が効を奏すると思うのだが、アルファ・クラブの皆さまにもご教示を賜り、せっかくいただいた2度目の命を、これからが人生の大舞台と悔いなく使いたい。

日野原先生の言葉に納得

7月にお亡くなりになった聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生の追悼テレビ番組で心に残ったことがある。それは先生が子供たちに「命とはなんでしょう。命とは時間のことなのです」と説かれたことだ。

子供には子供それぞれに天から与えられた時間というものがあり、それを無駄にしないということが命というもので、ましてや私のような老人にはそれこそ一瞬一瞬の時間が命というものだと思わず先生のお話に納得してしまった。

日野原先生は戦争体験や多くの人々の「終末」に立ち会われて、命が決してバラバラで孤独なものではなく、終末という時点から見ると、皆が支え合い、励まし合う「貴重な時間」に見えたのだと思われる。先生自身、人生これから大舞台がやってくるので、一瞬一瞬を大切に生きようと鼓舞されていたのではないだろうか。

実は先日、大学のゼミ同門の元総理大臣小泉純一郎氏とお会いしたとき、彼は「憲政の神様といわれる尾崎行雄翁が95歳で亡くなる1年前に『人生、これからが大舞台』といっていた」。自分(小泉氏)もまだ「これからが大舞台だ」と話していた。

ワクワク感を持って頑張る

小泉氏は、今、「原発ゼロ、自然エネルギー推進連盟」を立ち上げ、日本の新しい国造りを支援している。私も微力ながら彼に賛同してお手伝いしているのだが、日野原先生も小泉元総理も同じワクワク感を共有しているのに驚かされる。

「命は時間」という日野原先生のお言葉や「人生、これからが大舞台」というワクワク精神でこれからも頑張っていきたい。

(横浜市青葉区)