東北大学大学院 消化器外科学教授 海野 倫明(うんの・みちあき)

海野 倫明 先生

海野 倫明 先生

1 胃切除後胆石の病態

胃切除術後には胆石( 胆嚢にできる結石)、いわゆる「胃切除後胆石」が発生しやすいといわれていますが、その病態はいまだに明らかにされていません。ここでは本病態とその治療法について説明します。

胃切除後胆石が発生する頻度は、一般に10〜20%程度といわれていますが、実際には多くの患者さんを集めた統計は存在せず、また観察期間によりその発生率は変化するため、明らかな頻度は不明です。

また、胃切除後胆石の原因についても不明な点がたくさんあります。胃を切ることによる直接的な影響ではなく、胃切除術の際に肝臓や胆嚢・胆管に分布する迷走神経と呼ばれる副交感神経を切離するための副次的な影響との意見が多いです。

迷走神経が切断されると胆嚢の容積が増えるため胆石ができやすくなるとの説もあります。その一方で、迷走神経が切断されていても、胆嚢を収縮させる消化管ホルモン(コレシストキニン)への反応は変化がないという意見もあり、一定の見解が得られていません。

また、胃切除術後には総胆管での胆汁のうっ滞や感染が多いため、総胆管に結石が発生しやすいという説も提唱されていますが、これを裏付ける明白な証拠はありません。

2 予防的胆嚢摘出術の可否

後述するように、現在では、胆石があっても症状がなければ胆嚢を摘出するメリットがなく、「予防的手術は推奨されない」とガイドラインに示されるようになりました。胃切除後胆石も無症状であることが多いため、多くの場合は経過観察で良いことになります。そのため、胃切除時に予防的に胆嚢を摘出することは、一時期ほど推奨されなくなったようです。

しかし、個々の患者さんの病態によっては、予防的に胆嚢を摘出したほうが良い場合もあるため、十分に術者(手術する医師)と相談して決めることが大切です。

3 胃切除後胆石の治療方針

胆石と総胆管結石とでは治療方法が異なります。

胆石の場合は、症状があるかどうかが大きなポイントになります。全く症状がない胆石(無症状胆石)は、手術をする必要はないと考えられています。これは世界の大規模な臨床研究の結果に基づくもので、日本の胆石診療ガイドラインにおいても、無症状胆石は手術をする必要はないとされています。

その一方で、手術をしなければならない胆石もあります。胆石による腹部症状、すなわち右上腹部の激痛( 疝痛発作)や鈍痛がある場合は、胆嚢摘出術を行ったほうが良い例です。

特に胆石が胆嚢の頸部にとどまって胆嚢内容物の流出が阻害されて、そこに細菌が感染して急性胆嚢炎を来たしている場合には、手術が強く勧められます。

急性胆嚢炎が軽症の場合は、発症後72時間以内に手術を行います。その手術は、胆嚢に炎症がない場合よりも若干難しくなりますが、術者が腹腔鏡下胆嚢摘出術に熟練していて、かつ急性胆嚢炎が比較的軽症あるいは中等症であれば、腹腔鏡下胆嚢摘出術が十分に可能です。

その一方で、炎症が高度で全身状態が不良の場合には、皮膚から肝臓を経て胆嚢に穿刺し、胆嚢内容液を排出する処置、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)が行われます。本手技は局所麻酔で行えて、熟練した術者には比較的容易な手技です。こうした処置を行い、急性期の炎症を抗菌薬などでコントロールした後に全身状態の改善を待って、胆嚢を摘出します。

胆嚢内に腫瘍が疑われる場合も手術の適応になります。胆石症として胆嚢を摘出した患者さんの0・3〜1%に胆嚢がんが併発していることが知られています。このように偶然に発見された胆嚢がんを「偶発胆嚢がん」と呼びます。

偶発胆嚢がんは比較的早期であることが多いですが、胆石にマスクされて、進行胆嚢がんになっていることもあるため、注意が必要です。

同様に胆嚢内腔全体を結石が占めるような充満結石の場合にも、腹部超音波検査やCT検査などで胆嚢壁の変化を観察することが極めて難しいため、胆嚢がんを見落とす可能性が高くなります。このような場合も胆嚢摘出術が勧められます。

胃切除術後は、手術創への癒着や臓器同士の癒着が多いため、一般に腹腔鏡下手術の難度は上がります。しかしながら、腹腔鏡下手術が広く普及して、熟練した術者が増えたことから、胃切除術後であっても腹腔鏡下手術が第一選択になることが多くなりました。

ただし、上腹部を手術していない患者さんよりも手術の難易度が高いことには変わりがありませんから、術者や施設をよく検討する必要があります。また、腹腔鏡下手術では安全性が担保できないと判断したときには速やかに開腹手術に移行する適切な判断ができる術者と施設を選ぶべきです。

なお、胆嚢の中にある結石のみを取り出す手術はできないかという質問をよく受けますが、このような胆石除去術は、高率に胆石が再発するため、現在はほとんど行われていません。

4 胃切後総胆管結石の治療方針

一方、総胆管結石の場合は、たとえ無症状であっても治療を行うべきと考えられています。総胆管結石の治療は、内視鏡治療と外科治療とがあり、どちらが優れているかは定まっていません。

内視鏡治療は、口から内視鏡を挿入して、十二指腸乳頭を切開し、そこから総胆管内に器具を挿入して結石を除去する治療法です。胃切除後、特に胃全摘後や幽門側胃切除後にビルロートⅡ法で再建している場合には、内視鏡が十二指腸に到達することが難しいため難易度が上がりますが、近年はダブルバルーン小腸内視鏡やシングルバルーン小腸内視鏡の普及により、専門施設において成功率は高くなっているとの報告があります。

内視鏡治療は侵襲が少ないですが、その一方で、内視鏡操作による急性膵炎の併発や、乳頭切開による出血などが起こり得るため、施設と術者を選ぶ必要があります。また、胆石を併発している場合には、本治療後に改めて胆嚢摘出術を行う必要があり、治療期間が長くなるという問題もあります。

外科治療は、腹腔鏡下あるいは開腹により総胆管内の結石を除去する治療法です。総胆管を切開して結石を除去する方法と胆嚢管断端から結石を除去する方法とがあり、結石の大きさや数、そして施設の熟練度などから、どちらかの方法が選ばれます。

また、胆石が併発している場合には、胆嚢摘出術も同時に行うことが可能で、一度に治療が完結できます。その一方で、胃切除術後の腹腔鏡下手術は、手技の難易度が高いこと、特殊な器具が必要であることなどから、積極的に施行している施設は限られています。

5 おわりに

このように、胃切除術後の胆石や急性胆嚢炎、また総胆管結石の治療は、胃を切除していない場合と比較すると難易度が高いため、胆嚢や胆管を熟知した医師がいて、多くの症例経験を有する専門施設で治療することが望まれます。また、施設や術者の熟練度により治療法が選択されることが多いため、医師の説明をよく聞き、十分に理解して治療法を選択することが最も重要と考えます。